INTERLUDE――サンプル(本文より抜粋)



それは、いささか奇妙な依頼だった。
リーブに呼び出され、いやな予感を覚えつつ――彼に呼び出されるときは、厄介な事が持ち上がっているときがほとんどだ――行ってみると、いつになく遠慮がちにジュノンに届けて欲しいものがあるという。
ジュノン――神羅の軍港であり、海底魔晄炉に行くための重要な拠点だった。
神羅カンパニーが再建されたとはいえ、ジュノンは現在WROが管理している。魔晄炉があるからこそ、WROは神羅にその統轄権を渡さないようにしている。
だから、WROの事実上のトップであるリーブがジュノンに何かを届けたいと思ったら、わざわざクラウドに頼むまでもない。WROのルートで送ればいいだけの話のはずだ。
リーブにそう言うと、これは個人的なもので個人のものを公のルートで送るのは資金の無駄遣いだしWROは企業とは言えないにしても守るべきルールはあるのであってコンプライアンスが云々かんぬん公私混同はなんたらかんたらと捲し立てられ、途中でどうでも良くなったクラウドは出されたコーヒーを飲み、十二階にあるオフィスの窓からエッジを見渡した。
この角度からは廃墟となったミッドガルは見えない。リーブのオフィスで出すコーヒーの味は悪くない。エッジももはや瓦礫の中から立ち上がった灰色の街ではなくなり、スマートなオフィスビルが増え、車の往来も激しくなった。人々の服装も明るい色になり、足取りも颯爽と目的のあるものになった。どれもこれもけっこうなことだ。相も変わらず自分だけが変わることを拒否している……。
気がつくとリーブの話し声は止んでいた。
「話は終わったか?」
「相変わらずですね、クラウドさん」
苦笑しながらリーブはデスクの抽斗から小さな包みを取り出した。
「これを届けていただきたいのですが、特に時間を指定してお願いしたいのです」
時間?と口に出して問う代わりに、クラウドは眉を上げた。
「明後日の午後四時、アルジュノンのカフェで、私の……知り合いに渡していただきたい」
「午後四時……」
「ええ、その時間しか彼女は来れないのです」
彼女、という言葉に思わずリーブの顔を見つめてしまった。
こほん、と軽い咳払いをして「古い知り合いでして」という口調は、いくぶん言いわけがましく聞こえたが、その辺につっこみを入れる気はクラウドにはさらさらない。リーブに女性の知り合いがいるということに少し驚いただけだ。
「人相、もしくは特徴は? 聞いておかないと渡せない」
「あちらの方からクラウドさんに声をかけます。それでわかるはずです」
「オレを知ってるのか?」
「ええ……というより、クラウドさん。クラウドさんは有名人なんですよ。多少なりとも例の災厄の事情を知っている者なら――まあ、これは元神羅関係者が多いわけですが――、クラウドさんの顔も知っています。今までご存じなかったんですか?」
クラウドは黙ってリーブの顔を睨みつけた。ある程度顔が知られているのはわかっているし、仕方のないことだと思ってもいる――が、あまりはっきりと言われたくはない。さっと視線を逸らして依頼の品物を取り上げた。この件はここまで、という態度だった。
「ずいぶん小さいな」
「ええ、ですが、私たち――私と彼女にとっては大切なものなんです」
手のひらに載るほどの大きさの四角い箱。
「楽な仕事だ。距離が若干あるけどな」
ちらっと笑って、リーブは封筒も取り出した。
「時間まで指定してのお願いですから、少し多めに入れておいたつもりです」
デスクの上を滑らせるようにして差し出された封筒を取り上げると、クラウドは立ち上がった。
「確かに預かった。明後日の午後四時、アルジュノンのカフェで」
「封筒の中は見なくてよろしいのですか?」
「ああ」
口の端で微かに笑いながら、クラウドはオフィスを出た。






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